
障がい者福祉事業を営んでいますが、常勤換算の計算が自治体の手引きだけではよく分かりません。。
常勤換算の計算を失敗して実地指導の時にトラブルになったという例を周囲から多く聞きます。
今一度、常勤換算の計算を一から詳しくご説明してもらえないでしょうか?
障害福祉サービスで必要とされる人員配置基準を満たすには、必要な常勤換算数以上のスタッフを配置する必要があります。
常勤換算の計算を分かっているつもりでも、間違えていることも少なくなく、自治体とトラブルになったケースもよく聞きます。
この記事では障害福祉の事業者様の理解の一助になるように以下のような内容がわかるように説明いたします。
- 障害福祉事業の常勤換算のポイントが分かります
- 常勤換算の計算でどこがミスしやすいか分かります
- 常勤換算の計算で自治体に指摘されやすい注意点が分かります
【障害福祉事業】常勤換算の計算総まとめ!

多くの障害福祉事業では必要な人員配置を、スタッフの頭数ではなく、配置されている時間数で計算いたします。
(用語) | (説明) |
常勤 | 勤務時間が「常勤の従業者が勤務すべき時間数」に達している |
非常勤 | 勤務時間が「常勤の従業者が勤務すべき時間数」に達していない |
専従 | 事業所の勤務時間帯において、その職種以外の職務に従事しない |
兼務 | 事業所の勤務時間帯において、その職種以外の職務に同時並行的に従事する |
<「常勤」を理解するためのポイント>
・雇用契約上は正社員であっても、週20時間の勤務なら「非常勤」になります
・雇用契約上は非正規職員契約であっても、週40時間の勤務なら「常勤」になります
障がい者福祉事業の常勤や兼務といった重要な用語の意味まではしっかり理解することができました。
それでは障害福祉事業を運営していく上で、こういった常勤換算の計算においてどのような点に注意すればよろしいでしょうか?
一見すると常勤換算は簡単なように見えますが、事業所様にも都合があり、どのように運営していけばいいのかわからないと相談されるケースが多々あります。
もし常勤換算を正しく計算しておかないと人員配置基準を満たせず減算のリスクがあります。
それでは障害福祉事業の常勤換算のポイントについてしっかり説明したいと思います。
週毎の常勤時間以上は算入できない

障害福祉事業の常勤換算は基本を週40時間としながら、それを超えた残業時間等は人員配置の計算に含むことはできません。
※残業時間を常勤換算に参入できない例
週40時間+残業8時間労働 → 常勤換算1
<常勤時間を下げる場合の注意点>
週毎の常勤時間は基本40時間ですが、事業所毎に下限32時間まで減らすことが可能です。
(例)常勤時間=週32.5時間、月〜金6.5時間/1日
(常勤時間が少ないメリット)
・非常勤職員の場合は人件費の節約につながる
・営業時間を短くできる
・満たす必要がある常勤換算数を超えやすい
(常勤時間が少ないデメリット)
・急な人員欠如の時に常勤職員が追加でシフトに入りにくい
・土曜日を開業する時に常勤職員がシフトに入りにくい
・バイト時間が短く日当額が低く、職員が集まりにくい
サービス提供時間の間に常に2人以上の頭数を必要とする児童系の障害福祉と比べて、就労継続支援系のサービスなどは常勤時間を短くして経営を回す場合が多いです。
ただ少なくした常勤時間以上は計算に算入できない点を理解されておらず、急な人員欠如や土曜日開業で人員欠如の減算になる事例を度々みてきました。
人件費を少なくできるし事業も簡単になるという単純な理由だけで常勤換算時間を減らさないことをお勧めいたします。
1ヶ月を4週で計算しない場合の注意点

障害福祉事業の常勤換算は基本的に1ヶ月を4週間で計算しますが、4週ベースの計算だと場合によっては人員配置基準を満たせず減算適用になる時があります。
<対策法:30日or31日ベースで計算する>
分母を160時間(4週基準)ではなく、30日だと分母を160×(30÷28)時間で常勤の計算をいたします。
※変形労働制を採用する場合は5週ベースで人員配置基準を確認いたします
(例:176時間の常勤者、168時間の常勤者、96時間の非常勤者)
(176+168+96)÷(160×(30÷28))=2.5
ポイントは週単位では週毎の常勤数以上は計算対象にならないのですが、30日や31日で計算した場合、4週を基準とした時間数以上の時間も計算対象になる点です 。
例えば4週では160時間の設定なのに、30日だと176時間や168時間なども想定されることができます。
30日だと(30÷28)で計算いたしましたが、他にも合理的な計算方法があるのであれば問題はありません。
※祝日等や事業所の休業日の計算について
常勤職員の勤務を要しない日があれば、設定されている月の常勤時間数より合計が少ないままで記載して計算することができます。
例:4週合計152時間(週半ばで祝日1日あり) → 週平均38時間/勤務述べ時間数152時間で計算する
「常勤の勤務すべき時間数」の設定について

障害福祉事業の「常勤の勤務すべき時間数」の設定は「就業規則」が根拠になり、義務がなくても準じた定めを作成し「常勤者の勤務日/勤務時間数」を記す必要があります。
<常勤時間の設定に関する注意点>
・上限は40時間ですが、福祉事業は44時間の特例措置が認められる可能性があります
・就業規則に定めれて、職種により就業時間が異なることも可能です
・同一の職種で契約の種類により勤務時間が異なる場合、最も多い時間数が常勤時間となります
・通所系の常勤職員の1日の勤務時間数は、営業時間と同じ時間数であることに注意しましょう
<変形労働制を採用する際の注意点>
・シフトによって一定期間の労働時間の合計数が異なることが想定されますが、当月の労働時間の最も多い人の時間数が「常勤の勤務すべき時間数」になります
・最多の時間数に満たない者は「非常勤」となります
・常勤すべき時間数に満たなくても、最多の時間であれば「常勤」の扱いになります
・変形労働でも法定休日なら休日労働割増賃金、深夜(22~5)なら深夜割増賃金が必要になります。
<休憩時間の設定の注意点>
・自治体によっては、常勤換算のための勤務時間数に休憩時間(※労働基準法上の必要時間)を含めるところもあります
・他方で、常勤換算に原則的に休憩時間を含めない自治体もあるので要確認です
・いずれにせよ休憩時間を設定する際に、配置職員がゼロの場合は指導が入るケースがあるのでお気をつけください
(暦日数) | (週40時間の上限) | (週44時間の上限) |
31日 | 177.1時間 | 194.8時間 |
30日 | 171.4時間 | 188.5時間 |
29日 | 165.7時間 | 182.2時間 |
28日 | 160.0時間 | 176.0時間 |
就業規則は従業者が10人未満だと作成が義務ではありませんが、「常勤の勤務すべき時間数」を定めるために必須とも言えます。
特に職種によって時間数を変える場合や変形労働制を取る場合は、しっかりと従業者と話し合い常勤の時間を適切に定めましょう。
「常勤の勤務すべき時間」の根拠は実地指導で確認されるので慎重に設定することをお勧めいたします。
※就業規則のオススメの書き方
常勤時間を「40時間」ではなく「40時間以内」と幅を持たせておくことで状況に応じて柔軟な対応をすることができます。
常勤換算「1」の取り扱いについて

障害福祉事業で常勤換算を4週ベース160時間で行っている場合、月によっては常勤者が160時間に満たなくても、また160時間を超えていても常勤換算「1」として計算することが可能になります。
<シフトの関係上、4週の勤務表だとズレが生じる場合>
例:4週152時間の常勤者、4週168時間の常勤者
(計算)1+1=2
例:4週160時間の常勤者、4週120時間の常勤者(週30時間)、4週24時間の非常勤者
(計算)1+(120+24)÷160=1.9
4週のシフトで月により160時間でなくても「1」としてカウントできますが、毎月固定的にそうなると常勤でなく不適切な扱いになる可能性があるのでご注意ください。
月毎に常勤換算の扱いが変わるということから、翌月のシフト表の予定は整理しておき、人員欠如にならないように準備いたしましょう。
※育児または介護の職員に関する特例
育児または介護により労働時間の短縮措置が講じられている職員については、常勤すべき時間を30時間(=常勤1)として設定することが可能です。
休暇・出張と退職に関する取り扱いは?

障害福祉事業は「常勤が勤務すべき時間数」を定め、人員欠如減算に該当しないよう常勤換算でスタッフを配置しますが、休暇・出張・退職などのイレギュラーな事態に対する取り扱いにご注意ください。
<休暇・出張の注意点>
・常勤職員は休暇・出張の時間は、常勤換算の時間数に含めることができる
・暦月で1ヶ月を超える場合は、常勤者であっても勤務時間数に含めることができません(産休・育休含める)
・法人としては常勤でも他との兼務で事業所で非常勤扱いになっている者は、有給休暇など常勤換算の時間数に含めることはできない
<育児・介護休業法による短縮措置について>
例外的に「常勤すべき時間数」を30時間にすることができるが、以下の各点を要件にいたします。
・3歳未満の子を養育する者
・就業規則において短時間勤務の始業及び就業時間等が記載している
・勤務表の備考欄に、この特例を適用している旨を記す
<月途中の入職または退職の注意点>
在職期間は「常勤」と扱えますが、常勤換算の計算は当月に勤務した時間数に応じて非常勤職員と同じように計算を行います。
サービス提供時間の間に常に2人以上の頭数を必要とする児童系の障害福祉と比べて、就労継続支援系のサービスなどは常勤時間を短くして経営を回す場合が多いです。
ただ少なくした常勤時間以上は計算に算入できない点を理解されておらず、急な人員欠如や土曜日開業で人員欠如の減算になる事例を度々みてきました。
人件費を少なくできるし事業も簡単になるという単純な理由だけで常勤換算時間を減らさないことをお勧めいたします。
「常勤兼務」の取り扱いについて

障害福祉事業で事業所をまたいで兼務しており、合計時間数が常勤の時間数に達していた場合、以下の要件を満す場合のみ「常勤兼務」として扱うことが可能になります。
<「常勤兼務」の条件とは>
パターン1:同一敷地内の同一法人の兼務にて、「管理者」とその他職種の兼務
パターン2:「同時並行的に行われることが差し支えない」と基準が示されている
<「常勤兼務」を設定する際の注意点>
・3種類以上の兼務は認められません(※管理者3種類の兼務は可能です)
・管理者と別職種の兼務の場合、1日の従業時間の半分以上は管理業務に従事する必要があります
「常勤兼務」の従業者を設定するときは、月・水・金を管理業務のみ行うといった勤務形態は認められない点にご注意ください 。
また管理者が兼務できるといっても、管理者+管理者+生活支援員などは「常勤兼務」として認められません。
その他にも介護保険と異なる取り扱いがされる可能性があるのでご注意ください。
<管理者との兼務で常勤1以上満たすことについて>
常勤1以上だと月160時間の勤務時間が基本的に求められます。
ただ管理者と兼務した場合、2つの職種で合計して160時間以上の勤務であると「常勤兼務」として「常勤1以上」の基準を満たすことができます。
例)サービス管理責任者と管理者を兼務
サービス管理責任者の勤務時間が160時間に達していなくても、管理者との合計で160時間であれば、「サビ管常勤1以上配置」の基準を満たすことができます。
よくある質問

介護保険法の訪問介護事業所との兼務も可能でしょうか?
答:可能です。同時並行的に兼務が可能とされているので「兼務」とする必要はなく、いずれの事業所でも「専従」として扱い、いずれも1日8時間として記載することができます。
従たる事業所の管理者やサビ管に関する勤務体制一覧表の記載はどうすればいいでしょうか?
答:省略することができます。双方に配置されるサービス提供職員は時間毎に分けて計上する必要があります(合計が常勤すべき時間すなら「常勤・兼務」になる)。
開業してから1年の実績がなくても処遇改善加算は算定することができますか?
答:算定することができます。その時は見做しとして1年間の賃金を仮定して計画書を作成いたします。
障害福祉と介護職を兼務している職員は賃金改善の対象に含めることができるでしょうか?
答:含めることができます。ただし障害福祉事業の常勤換算数の割合に限ります。
まとめ

本日は障がい者福祉事業の常勤換算のポイントをご説明いただきありがとうございました。勉強になりました。
少し不安なところがあるので減算にならないように、今一度全てのシフト表を確認しなおします。
常勤換算で基準を満たしているか危ういと感じた場合、4週の計算ではなく30日もしくは31日基準で計算してください。非常勤職員のバランスで実はクリアしていることがあります。
また一週間で常勤以上の時間を勤務して常勤換算の計算に含めている場合はご注意ください。
「常勤兼務」の職員に関しても本当にその資格があるか、今一度点検していただければ幸いです。
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