就労継続支援A型事業所を運営していますが、生産活動の収益から利用者さんへの賃金を支払えていません。そんな時に就Bとの「多機能型」なる形態で運営できることを知り、どうすればいいか悩んでいます。
そこで就労継続支援A型とB型を組み合わせた「多機能型」について、メリットやデメリットを解説してもらえないでしょうか?
就Aから就Bとの「多機能型」への変更は、今後の経営を支える上で大切な選択肢です。
就Aで赤字で「経営改善計画」を毎年書いている場合、状況によっては指定取り消しなどもあり得るのでご注意ください。
この記事では事業者様の理解の一助になるように以下の内容を説明いたします。
- 就Aと就Bの「多機能型」のメリットがわかります
- 就Aと就Bの「多機能型」のデメリットがわかります
- 就Aと就Bの「多機能型」の採否の判断基準がわかります
目次
多機能型のメリットとデメリットは?判断基準を解説
就労継続支援A/B型事業所は各々で別で指定を受けてサービス提供をすることが可能ですが、自治体に両者を同時に兼用する旨を届け出することにより「多機能型」という形態で一体的に運営することが可能になります。
<類似する「一体型」と「多機能型」の違いとは>
・「一体型」 :主に複数の場所の事業所を一体的に管理運営するもの
・「多機能型」:複数の事業を一体的に行うもの
利用定員 | 従業員配置 | 会計 | |
「一体型」 | 20人以下も可能 | それぞれに常勤1 | 明細書は分けない |
「多機能型」 | 20人以上が必要 | 全体で常勤1 | 明細書を分ける |
就労継続支援A型とB型の「多機能型」の概要について理解することができました。
ただ両者の「多機能型」を実施するとメリットとデメリットが両方生じると思うのですが、その「多機能型」を安定して運営する上でどのような点に気をつければ良いでしょうか?
「多機能型」は就Aと就Bの各々が補う形で運営できるので、便利になる反面、コスト増や収益減の可能性も生じます。
実地指導の時にも「多機能型」として就Aと就Bの両者が適切に運営されているかチェックされますのでご注意ください。
以下では就労継続支援A型とB型の「多機能型」のメリットとデメリットをわかりやすく説明いたします。
「多機能型」のメリットとは?
就労継続支援A型事業所B型事業所は、それぞれで指定を取って運営をすることも可能ですが、「多機能型」として両方の福祉サービスの指定を受けると、相乗効果によるメリットを期待することができます。
<就A・就B「多機能型」のメリット>
・両方の事業所のサビ管と管理者を兼務させることができる
・両方の事業所で常勤の直接支援者は1名でいい
・就Aで「経営改善計画」を作成しなければいけない事態を避けやすい
・就労能力の程度により多様な障害者を受け入れることができる
就労継続支援A型から就Bとの「多機能型」に転換する大きな理由は、就Aで生産活動の会計が赤字の場合に作成しなければならない「経営改善計画」の作成を免れたいことが挙げられます
自治体によっては数年間、「経営改善計画」を就Aで書いていると指定取り消しのリスクもあるので、該当可能性のある事業所は早期にご検討ください。
就Aで働く利用者が最低賃金に値しない場合は非雇用型に転向してもらうことも考えられますが人数に上限があるなど注意が必要です。
「多機能型」のデメリットとは?
就労継続支援A型事業所B型事業所は、「多機能型」を選択することで幾つかのメリットを享受できますが、その反面では「多機能型」のデメリットを避けることができなくなります。
<就A・就B「多機能型」のデメリット>
・報酬単位が一般的に就Bの方が低い(=収益減の可能性)
・就労支援事業会計の内訳を就Aと就Bとに区分する必要がある(=税理士費用の増額の可能性)
・「目標工賃達成指導員」と「賃金向上達成指導員」の兼務ができない(=収益減の可能性)
就Aだけで事業運営をしていた場合は、「多機能型」にしてその半分を就Bに回すと報酬単位が違うので、結果的に収益減になる可能性があります。
また大きな収益をもたらす「目標工賃達成指導員配置加算」や「賃金向上達成指導員配置加算」は、職員が兼務になると必要な配置基準(常勤1)を満たせなくなる可能性が出てきます。
また「多機能型」にすれば就Aや就Bで生産活動も異なるので会計の手間は倍になり事務的負担が増えることにも注意いたしましょう。
「多機能型」の採否の判断基準について
就労継続支援A型B型で「多機能型」を選択することができますが、採択してもしなくても各々にメリットとデメリットが付随するので、具体的な判断の事例を通して「多機能型」の検討をいたしましょう。
<「多機能型」の選択事例>
・生産活動が赤字で「経営改善計画」を毎年書いている→「多機能型」を検討
・生産活動の単価が安い/取引先が潰れた→「多機能型」を検討 or 非雇用型就A or 就B単独
・会社代表が「賃金向上達成指導員」で加算額が大きい→「多機能型」へは保留
・工賃の作業を希望する人が多い→「多機能型」を検討 or 就Bの追加を検討
生産活動の会計が芳しくない場合は、一時的な収益減も見越して長期的に就Bとの「多機能型」を選択するのも良い案です。
ただ引き続き利用者を確保していき事業拡大を目指すなら、賃金向上達成指導員を配置して、しっかり営業して単価が高い仕事を探してもらいましょう。
その他にも「多機能型」以外の選択肢があるので、場合によっては熟慮されることをお勧めいたします。
まとめ
就労継続支援A型とB型の「多機能型」について詳しく分かりました。ありがとうございます。
特に「多機能型」を採択する場合の判断基準が参考になったので、改めて自社の状況を確認して「多機能型」を検討する際に参考にいたします。
就労継続支援A型とB型を「多機能型」で適切に運営した場合は、今後の事業形態を拡大して安定させる可能性があるでしょう。
ただ「多機能型」への転換はあくまでも選択肢の一つであり、他にも様々な選択肢が残されていることにご留意ください。 安易に「多機能型」を信じて事業展開するとコスト増や収益減の可能性もありますのでご注意ください。
就Aと就Bの「多機能型」の制度をうまく利用して、多様な障害者を受け入れる体制づくりを行い、しっかりと自治体や利用者さんから評価される組織を作りましょう。
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