就労継続支援A型事業所を運営していますが、利用者さんを就職させて、「就労移行支援体制加算」を取得して事業拡大していきたいです。ただ効果的な「就労移行支援体制加算」ですが、実地指導でトラブルも多いと聞きました。
そこで「就労移行支援体制加算」について、詳しく教えていただけますでしょうか?
現在の報酬制度では、利用者さんを就職させる就労継続支援事業所が評価され、多くの収益を得る傾向にあります。
就労実績に対する評価の代表的なものに「就労移行支援体制加算」がありますが、算定要件が複雑で実地指導でトラブルが多いと聞きます。
この記事では事業者様の理解の一助になるように以下の内容を説明いたします。
- 「就労移行支援体制加算」の間違えやすいポイントがわかります
- 「就労移行支援体制加算」を使った収益拡大のポイントがわかります
- 「就労移行支援体制加算」の活用事例がわかる
目次
「就労移行支援体制加算」とは?収益拡大のポイント解説
就労継続支援A型/B型事業所の「就労移行支援体制加算」では、事業所のサービス提供を受けた後に6ヶ月以上就労継続している者が前年度にいる場合、スコアに応じた単位数に、前年度の就労継続人数をかけた単位数の加算を翌1年間の間取得できる。
スコア⇨ | ~60 | 60~80 | 80~105 | 105~130 | 130~150 | 130~150 | 170~ |
人員配置 7.5 : 1 | 50 | 57 | 65 | 73 | 80 | 87 | 93 |
人員配置 10 : 1 | 47 | 54 | 62 | 70 | 77 | 84 | 90 |
<「就労移行支援体制加算」の具体的な収益について(就A)>
例:前年度の就労継続人数3人 / スコア105 / 開所日数22日 /7.5 : 1 人員配置 / 利用者数15人
3人 × 73単位/日 × 22日 × 15人/月 = 72,270単位/月
× 10円/単位 = 722,700円/月
平均工賃(万)⇨ | ~1 | 1~1.5 | 1.5~2 | 2~2.5 | 2.5~3 | 3~3.5 | 3.5~4.5 | 4.5~ |
人員配置 7.5 : 1 | 48 | 51 | 58 | 65 | 72 | 79 | 86 | 93 |
人員配置 10 : 1 | 45 | 48 | 55 | 62 | 69 | 76 | 83 | 90 |
<「就労移行支援体制加算」の具体的な収益について(就B)>
例:前年度の就労継続人数3人 / 平均工賃1万円/ 開所日数22日 /7.5 : 1 人員配置 / 利用者数15人
3人 × 51単位/日 × 22日 × 15人/月 = 50,490単位/月
× 10円/単位 = 504,900円/月
「就労移行支援体制加算」の取得条件と加算額の概要はよくわかりました。「就労移行支援体制加算」は加算額がとても多いですね。
ただ「就労移行支援体制加算」の加算額が大きいがゆえに、実地指導の時に何か指摘されて報酬の返還など命じられるのが怖いのですが、「就労移行支援体制加算」の取得でどのような点に気をつければ良いでしょうか?
「就労移行支援体制加算」を取得できれば、たとえ就職した利用者がいなくなっても、その不足分を補填できるほどの大きな収益を得られます。
ただ「就労移行支援体制加算」の要件は実は難しく、算定する届出にミスも多くあり実地指導でもトラブルになりやすい傾向です。
以下では就労継続支援A型/B型の「就労移行支援体制加算」取得のポイントをわかりやすく説明いたします。
ポイント1:そもそも「就労」とは
就労継続支援A型/B型事業所で取得できる「就労移行支援体制加算」の要件の「就労」とは、労働時間等の労働条件は問わずに、企業等との雇用契約に基づく就労全般のことを意味します。
<「企業等との雇用契約に基づく就労」のポイント>
・アルバイトでも加算を算定することができる
・一度就職してからの転職も認められる
・基本的に就A/就Bと同時に他者に就労した場合は認められない(※要確認)
※間違えやすい注意点
・他社の就A利用者としての就労は認められない
・個人事業主として独立することは認められない
「就労移行支援体制加算」の算定条件が求める「就労」はいわゆる正社員としての就労に限定されるわけではありません。
アルバイトでも加算は取得できるので、根拠資料となる雇用契約書や労働条件通知書は、整理して保存いたしましょう。
就Aの利用中から利用者の特性を観察して、最適な就労先へと案内いたしましょう。
ポイント2:「6ヶ月以上継続」と算定のタイミング
就労継続支援A型/B型の事業所で「就労移行支援体制加算」を算定するためには、利用者が前年度において6ヶ月以上の雇用が達成されているか適正に計算することが大切です。
9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | … | 翌4月 | |
例1 | 就 | 就 | 就 | 就 | 就 | 就 | 算定 | … | ||
例2 | 就 | 就 | 就 | 就 | 就 | 就 | … | 算定 |
<「6ヶ月以上継続」の計算のポイント>
・6ヶ月の達成月を含む年度を前年度とみなす
・6ヶ月のカウントの起点は前前年度の11月1日から前年度の10月1日まで
・一度就労して転職する場合、離職後1ヶ月以内に再就労すれば「6ヶ月以上継続」は初めの就職時からカウントできる
・令和3年2月1日に就職した者は令和3年6月30日末の時点で「6ヶ月以上継続」になる
※「6ヶ月以上」が算定できる時点の注意点について
就労移行支援体制加算は前年度に「6ヶ月以上」の実績が確認できればいいので、前年度に6ヶ月働いていた場合でなく、更に前前年度から就労し前年度に六ヶ月目を迎えたパターンでも加算を算定できます。
「就労移行支援体制加算」の算定において、よくあるミスは「6ヶ月以上継続」と前年度との関係です。
利用者さんによっては転職を何度も繰り返す方もいるので、その都度雇用契約書などの証明書を集めておきましょう。
雇用契約書等にある就労日から「6ヶ月以上継続」のカウントが始まるので、日付の管理も大切にすることをお勧めいたします。
※間違った事例の解説
就労継続支援A型/B型の事業所は就労実績を作り「就労移行支援体制加算」を活用すれば収益拡大できますが、「就労移行支援体制加算」の活用方法で間違った事例もよく見るので解説いたします。
<「就労移行支援体制加算」の間違った事例>
・就A/就Bを運営する自社に就職させても「就労移行支援体制加算」は取得できないことが多いです(※自治体に要確認)
・就A/就Bを利用しながら他社に就職しても基本的には「就労移行支援体制加算」を取得できません(※自治体に要確認)
・就A/就Bを終えてから就職するまでの空白期間は、1年間の期間内であれば基本的に認められます(※自治体に要確認)
・「就労移行支援体制加算」を取得するために一度就労させて、6ヶ月以上経ったら就A/就Bに戻すことは利用者さんの自己決定を損ねている危険があります
「就労移行支援体制加算」を取得するために何とか就労実績を作り出そうとして、間違った加算の運用をしてしまうことが時々あります。
利用者さんが就労してしまうと、「就労移行支援体制加算」を取得しなければそれ以後基本報酬単位などを取得できないから収益マイナスになる可能性があります。
就Aから就労させるにあたっても、本当に十分な訓練を経て継続して就労できるのか見極めることが大切です。
「就労移行支援体制加算」の活用事例!
就労継続支援A型で就労実績がある事業所は「就労移行支援体制加算」を活用できますが、更に別の障害福祉事業と組み合わせることで、事業所の収益がより評価される傾向があるので、お勧めの活用事例をご紹介いたします。
<「就労移行支援体制加算」と「就労定着支援」の活用事例>
障害福祉事業「就労定着支援」と組み合わせて就Aと一体的に運用し、就労定着している方に相談援助を行うことで、一方で就Aでは「就労移行支援体制加算」を取得し、他方で就労定着支援では基本報酬を算定できます。つまり二重に報酬を得ることができてお得です。
※更に「就労定着支援」の従業員がジョブコーチの資格を持っていたら助成金も得られます
就労支援A型事業所で就労後の就労定着支援を行うことは努力義務ですが、別事業「就労定着支援」の指定を受ければそちらでも報酬を取得できます。
特に「就労定着支援」は就Aと一体的に運営できて、サビ管や管理者を兼務できるのでお得です。
「就労定着支援」には助成金もあり、これからも就労実績を出す事業所により多くの報酬が算定されると思われます。
よくある質問
就労とは正社員になることでしょうか?
答:バイトや非正社員でも認められます。それらも「就労」に含まれます。
就労はせずに個人事業主として独立した場合、就労移行支援体制加算を算定できますか?
答:個人事業主になった場合は算定できません。
就労継続支援に在籍しながらもバイトで就労する場合は?
答:加算を算定できない場合があります。自治体にお問合せください。
9ヶ月働いたけれど離職した利用者がいても算定はできる?
答:算定できます。
まとめ
就労継続支援A型/B型の「就労移行支援体制加算」の収益拡大のポイントついて詳しく分かりました。ありがとうございます。
特に「就労移行支援体制加算」の算定に関するよくある間違いには気づいていなかったので、すぐに社内で協議したいと思います。
就労継続支援A/B型の「就労移行支援体制加算」は算定額も大きいので、実地指導でトラブルになると大きな損失になる可能性もあります。
「就労移行支援体制加算」の基本的な性質は、就労して出ていった利用者の報酬を代替えするものなので、無理に利用者さんを就労に持っていく必要はないでしょう。 現在、企業も業界も人手不足が言われているので、これから障がい者の活躍の幅は広がっていく見通しです。
就労継続支援A型でしっかり就労実績を作り、「就労移行支援体制加算」や「就労定着支援」を活用して、しっかりと地域の企業や自治体から信頼される組織を作ってください。
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