就労継続支援A型事業所を運営していますが、雇用契約を結ぶほどの能力が現時点ではない利用者さんもいて賃金支払いに困っています。そんな時に就Aで雇用契約を結ばなくてもサービス提供できる特例があると聞きました。
そこで雇用契約を結び必要のない就Aの特例について、詳しく教えていただけますでしょうか?
雇用契約を結ばない就Aの特例は、将来的な雇用契約への移行を目指した前提的な対応として認められています。
ただ最近の実地指導において、雇用契約を結ばない特例に関して実務的な処理の不備が散見される聞きます。
この記事では事業者様の理解の一助になるように以下の内容を説明いたします。
- 雇用契約を結ばない就Aの特例のポイントがわかります
- 雇用契約を結ばない就Aの特例の、間違えないポイントがわかります
- 就Aの特例ではなく「就Bとの多機能型」を選ぶメリットがわかります
目次
利用者と雇用契約を結ばない特例について!間違えないポイント解説
就労継続支援A型事業所は本来、利用者さんと雇用契約を結びますが、現時点で雇用契約を結べない利用者とも特例の条件を満たすとサービス提供をして報酬を得ることができます。
<就Aの雇用契約を結ばない特例について>
1 就Aの利用定員の数が10人以上
2 雇用契約を結ばない特例の利用者の数が定員の半数または9人を超えない
3 雇用契約を結ばない特例の者と、通常の雇用契約を結ぶ利用者の作業内容/場所を明確に区分する
就労継続支援A型で雇用契約書を結ばない特例の概要はわかりました。
ただ通常とは異なった対応をするので、要件を満たしていると証明する記録を保存したいのですが、就Aの雇用契約を結ばない特例の、根拠書類の整理方法はどのような点に気をつければ良いでしょうか?
就Aの雇用契約を結ばない特例を有効にするには、通常以上に細やかな書類作成をする必要があります。
実地指導の時にも雇用契約を結ばない利用者への対応の不備は、よく指摘される事項です。
以下では就労継続支援A型の雇用契約を結ばない特例で、間違えないポイントをわかりやすく説明いたします。
雇用契約を結ばない特例:根拠書類の整理の仕方
就労継続支援A型事業所は雇用を結ばない利用者にサービス提供できる特例がありますが、その特例が有効になるには運営規程から会計書類まで様々な根拠書類の整理が必要になります。
<運営規程と重要事項説明書について>
「雇用契約を結ばない利用者」と通常利用者、それぞれの仕事内容/作業場所/賃金または工賃の額を記しましょう。
<利用者実績記録について>
「雇用契約を結ばない利用者」が定員の半数を超えないか、もしくは9人を超えないかを確認するために、通常労働者とは別に人数をカウントいたしましょう。
<会計書類について>
「雇用契約を結ばない利用者」に支払う工賃額の合計は、通常利用者への給与合計と区別して保管し、就労支援事業明細書(=生産活動の会計)にも別の勘定科目で記入いたしましょう。
もし途中から就労継続支援A型で、雇用契約を結ばない方にサービス提供をする場合は、定款/重要事項説明書を変更し、再度契約を結ぶことをお勧めいたします。
就Aの会計に関しても通常労働者が最低賃金を満たしていることを証明するためにも、特例の利用者と明確に分けることが求められます。
できれば就Aの従業員の勤務体制一覧表にも、どちらの利用者の支援にあたったか分けるようにもいたしましょう。
就Aの特例の利用 or 就Bとの多機能型 ?
就労継続支援A型の事業所で雇用契約を結ばない利用者が増えてきた場合は、雇用契約不要の特例の利用だけではなく、就Bと多機能型の経営にして対応することも選択肢として挙げることができます。
<就Bとの多機能型のメリット>
・「雇用契約を結ばない利用者」を10人以上受け入れることができる
・サービス管理責任者と管理者は兼務できる
※就Bとの多機能型に切り替えるポイント
「雇用契約を結ばない利用者」を就Aで受け入れると、就Aの基本報酬単位を決めるスコアの「平均労働時間」や「生産活動の収益比率」に影響を与え、結果として就Aの基本報酬単位を下げる危険性があります。
一つの目安として就Aのスコアが105点未満になるようなことがあれば、就Bとの多機能型に変更することをお勧めしています。
就Aで雇用契約を結ばない利用者を受け入れることは、もちろんメリットもありますが、スコアを下げて基本報酬単位が下がるデメリットも付いてきます。
途中から就Bとの多機能型に変更する際には自治体から承認を受ける必要がありますので、早めの対応をすることをお勧めいたします。
また就Bと多機能型になると、会計に関しても「就労支援事業事業活動内訳表」(=障害福祉事業別の会計)を新たに準備する必要があるのでご注意ください。
基本報酬を決める「スコア表」との関係
就労継続支援A型の事業所の基本報酬単位を決めるのは年度ごとの「スコア表」ですが、雇用契約を結ばない利用者がいる場合、スコア表の「(I)労働時間」と「(II)生産活動」のカテゴリーで注意が必要になります。
<スコア表「(I)労働時間」の注意点>
雇用契約を結ばない利用者の労働時間はスコア表に入れません。
<スコア表「(II)生産活動」の注意点>
雇用契約を結ばない利用者による生産活動の売上やその人件費も生産活動の会計に入れます。
令和3年の報酬改定で就Aの基本報酬はスコア表に依拠するようになり、雇用契約を結ばない利用者の扱いが難しくなりました。
ただ雇用契約を結ばない利用者もサービス提供の対象者であることに変わりはないので、スコア表の要件に合致すればその実績を算入することはできます。
事業所様としては通常の労働者と異なる管理が必要で、通常より多くの負担があると思いますのでご注意ください。
まとめ
雇用契約を結ばない就Aの特例について詳しく分かりました。ありがとうございます。
特に就Aの特例の会計書類の整理の仕方に不備があったので、すぐに社内で協議したいと思います。
就労継続支援Aで雇用契約を結ばない利用者にもサービス提供を行うことができますが、あくまでも限定的な場合です。
雇用契約を結ばない利用者数にも上限があり、多くなる見込みでしたら就Bとの多機能型を検討いたしましょう。 就Aの特例は便利ですが今後の請求単位にも関係するので、特例利用者の人数の推移を確認し、特例の利用が本当に収益に有利か定期的に確認することをお勧めいたします。
雇用契約を結ばない特例を利用して、就労継続支援A型の利用者さんの対象範囲を広げ、しっかりと自治体や利用者さんから信頼される組織を作ってください。
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