就労継続支援A型事業所を運営していて就職率が高くなってきました。今後の事業拡大のために就Aと一体的に就労定着支援を開始する予定です。
そこで就労定着支援の基本報酬単位の、算定根拠となる「定着率」の計算方法とはどのようにするのでしょうか?
就労定着支援は6ヶ月以上の就労継続者に対して、定着のための支援を行い、月1回以上の報告書を提出した場合に算定できます。
しかしその就労継続者の定着率は複雑で、間違えると実地指導の時にトラブルになってしまいます。
この記事では事業者様の理解の一助になるように以下の内容を説明いたします。
- 就労定着支援の報酬の「定着率」の計算方法がわかります
- 間違えない時期ごとの「定着率」がわかります
- 収益アップのために「定着率」を高めるコツが分かります
目次
就労定着支援の定着率の計算とは?年度ごとの算定方法を解説
就労継続支援A型事業所と一体的に運営できる就労定着支援の基本報酬単位は、事業所ごとの就労継続者の「定着率」と利用者数によって決まり、「定着率」を高めれば基本報酬単位も高くなる仕組みになっています。
<就労定着支援の「定着率」の計算方法とは>
「定着率」 = 前年度末日の就労継続者数 ÷ 過去3年間の就労定着利用者総数
※「前年度末日の就労継続者数」の算出の注意点
・就労定着支援の利用が終了しているが、就労が継続している者も含める(分母にも入れます)
・就労定着支援の利用中に離職したが1ヶ月以内に転職した者も含める
※「過去3年間の就労定着利用者総数」の算出の注意点
自治体によって以下の二つの解釈に分かれています(ただし2の解釈を採用する自治体が約65.2%です)。
1 過去3年間において1日でも利用実績がある総数:つまり3年以上前に利用開始した者も含める
2 過去3年間において利用開始をした総数:つまり3年以上前に利用開始した者も含まない
(定着率) | (基本報酬単位) |
9割5分以上 | 3,449単位/月 |
9割以上9割5分未満 | 3,285単位/月 |
8割以上9割未満 | 2,710単位/月 |
7割以上8割未満 | 2,176単位/月 |
5割以上7割未満 | 1,642単位/月 |
3割以上5割未満 | 1,395単位/月 |
3割未満 | 1,046単位/月 |
就労継続支援A型と一体的に運営できる就労定着支援の「定着率」の計算方法の概要がわかりました。
ただ実地指導でトラブルにならないよう、どうすれば適正に年度ごとに「定着率」を計算すればよろしいでしょうか?
就労定着支援の「定着率」の計算方法は、開業してからどのタイミングで算定するか意識することが大切です。
実態とは異なる不適切な状態で「定着率」を計算し基本報酬を算定すると実地指導の時にはトラブルになるのでご注意ください。
以下では開業時期からのタイミングごとに「定着率」の運用方法をわかりやすく説明いたします。
1:指定を受けてから最初の一年間
就労定着支援の指定を受けてから1年が経つまでの期間は、指定申請時に登録した就労定着支援の「定着率」を算定根拠とするので、その計算が特殊になり注意が必要です。
<指定を受けてから最初の1年間の「定着率」の計算方法とは>
「定着率」 = 指定申請の前月末日時点での就労継続者 ÷ 過去3年間の就労へ移行した者の総数
※最初1年間の計算方法の注意点
・就労へ移行した者の就労継続期間が、6ヶ月以上ある必要はありません。
・指定を一体的に受ける就労系サービスを経て就労する必要があります。
(条件) | (期間) | (計算方法) |
令和3年4月に就労定着支援を開始 | 令和3年4月~令和4年3月 | 最初の1年間の計算方法 |
令和3年6月に就労定着支援を開始 | 令和3年6月~令和4年5月 | 最初の1年間の計算方法 |
就労定着支援では最初の1年間は指定申請時の「定着率」が適用されるので、指定申請時の書類作成には注意が必要です
特に注意したいのが計算式の分子となる就労継続者は半年の実績が必要ではない点です。
年度の途中から就労定着支援をした場合はその月から1年間になるので、基本報酬単位が変更となる1年後の日程をしっかり確認しておきましょう。
2:1年間の実績が出た後〜次年度末
就労定着支援を開始してから1年経って後の基本報酬単位の根拠となる「定着率」の計算は、その開業からの1年間の実績によって変動するので、1年間の実数を正確に計算できるよう準備しましょう。
<1年間の実績が出た後の「定着率」の計算方法とは>
「定着率」 = 前月末日時点での就労継続者 ÷ 前1年間の就労定着の利用者総数
※1年間の実績が出た後の計算方法の注意点
・1年間経って時点での実績でその年度末までの定着率は固定します(=都度計算する必要はありません)。
・就労定着支援の利用者数なので半年以上の実績が必要です。
・就労定着支援の利用が終了しているが、就労が継続している者も含めます。
・就労定着支援の利用中に離職したが1ヶ月以内に転職した者も含めます。
(条件) | (期間) | (計算方法) |
令和3年4月に就労定着支援を開始 | 令和4年3月~令和5年3月 | 1年間実績の計算方法 |
令和3年6月に就労定着支援を開始 | 令和4年6月~令和5年3月 | 1年間実績の計算方法 |
就労定着支援の開始から1年間経てば、その1年間の間だけの実績が根拠となるので要注意してください。
またこの場合の就労継続者とは、開業時からの「定着率」の計算とは違って6ヶ月以上の就労実績が必要になります。
この1年経過後の「定着率」の計算は間違えやすいので、しっかりと在籍証明書等の根拠書類を揃えて対応いたしましょう。
3:年度ごとの「計算方法」の開始
就労定着支援を開業して1年間が経過したのち、その年度が終わったタイミングから、基本報酬の根拠となる「定着率」の計算方法は実績のある年度ごとの計算になっていきます。
<年度ごとの「定着率」の計算方法とは>
「定着率」 = 前年度末日時点での就労継続者 ÷ 指定開始から就労定着の利用者総数
※年度ごとの計算方法の注意点
・前年度の実績でその年度末までの定着率は固定します(=都度計算する必要はありません)。
・就労定着支援の利用者数なので半年以上の実績が必要です。
・就労定着支援の利用が終了しているが、就労が継続している者も含めます。
・就労定着支援の利用中に離職したが1ヶ月以内に転職した者も含めます。
(条件) | (期間) | (計算方法) |
令和3年4月に就労定着支援を開始 | 令和5年4月~令和6年3月 | 年度ごとの計算方法 |
令和3年6月に就労定着支援を開始 | 令和5年4月~令和6年3月 | 年度ごとの計算方法 |
このように就労定着支援の「定着率」を、純粋に前年度実績を基礎にして計算できるようになるまで一定の期間がかかります。
この時期になれば就労定着支援の指定月が年度途中であれ、算定期間は等しくなりますので開業時期による計算の複雑さはありません。
年度末ごとに前年度までの「定着率」の根拠となる資料を揃え、人数を正確に数えて計算を間違えないようにいたしましょう。
よくある質問
就労してから半年経てば就労定着支援の3年間のサービスが開始できると思うのですが、もしその半年経った後、定着支援を申請しなかった場合、有効期間である3年間は短くなるのでしょうか?
答:3年間の期間は短くなります。例えば、1年経った後に就労定着支援を申請した場合は、2年半年しか支援を受けられません。
その年に3年半経って就労を終えて就労が継続している方は、次年度の基本報酬の前年度の実績で、定着率の計算の分母にも分子にも入れるという理解でよろしいでしょうか?
答:分母にも分子にも入れることができます。
まとめ
就労定着支援の「定着率」の計算方法について詳しく分かりました。ありがとうございます。
しっかり就労定着支援の指定を受けてからの時期ごとに、適切に「定着率」を計算できるよう準備いたします。
就労定着支援の「定着率」の計算は開業してから時期ごとに計算が複雑なので運営上注意すべき点になります。
特に開業してから1年間は「定着率」が同じで、1年後からその年度末までは実績を基準にした計算になることにご留意ください。 年度ごとの「定着率」の計算の時期になるまでは、各月ごとに定着者数を算出しておくと便利でしょう。
適正に基本報酬単位を計算して、就Aと一体的に就労定着支援を運営し、しっかりと自治体や利用者さんから評価される組織を作りましょう。
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