★★★記事執筆者のご紹介★★★
この記事は障害福祉事業専門で、国家資格者である行政書士の戸根裕士が作成しております。多数の顧問先様との仕事から得られた、実務に役立つ注意点をまとめました。
戸根行政書士事務所のプロフィールはこちらですので、よろしければ弊社の支援方針や独自の強みなどご覧ください。
共同生活援助(障害者グループホーム)を運営していて、個人単位で居宅介護等を利用する特例の活用を検討しています。けれども、その特例の要件や単位、そして実際に収支がどうなっているか心配です。
そこでお尋ねしたいのですが、個人単位で居宅介護等を利用した場合の必要条件や収支構造など、具体的に詳しく教えていただけますでしょうか?
共同生活援助で個人単位で居宅介護を利用する特例は、令和9年3月31日まで延長されました。
ただしその特例の要件などが独特で、単位数も一般より低く設定されているので、慎重な経営計画が欠かせません。
この記事では事業者様の理解の一助になるように、以下の内容を説明いたします。
- 共同生活援助で個人単位で居宅介護を利用する特例がわかります
- その特例の人員配置から、収支構造まで具体例と共にわかります
- その特例の収支構造が改善する方法がわかります
目次
【特例】共同生活援助において個人単位で居宅介護等を利用?条件と人員配置を解説
令和6年度の報酬改定により、共同生活援助(障害者グループホーム)で、通常では認められない個人単位の居宅介護の利用が令和9年3月31日まで延長の許可が出ました。
(項目) | (条件) |
利用対象者 | ・区分4以上 かつ ・重訪、同行援護、行動援護の受給決定が下りている者 |
利用条件 | ・居宅における身体介護が必要 ・その必要性を個別支援計画に記す ・その必要性を市町村が認める |
人員配置 | ・平均利用者数に対する必要人員配置の2分の1 |
(区分) | (単位) | (1ヶ月目安金額)※ |
区分6 | 369単位/日 | 110,700円 |
区分5 | 306単位/日 | 91,800円 |
区分4 | 270単位/日 | 81,000円 |
※「共同生活援助において個人単位で居宅介護等を利用する」特例の注意点
・誰でもこの特例の対象者になりません
・比較的重い、重度訪問介護の対象である必要があります
・介護支援の中でも「身体介護」の支援が必須になります
・人員配置は世話人と生活支援員それぞれ、必要人員の2分の1の配置が必要です
共同生活援助で個人単位で居宅介護を利用する特例の概要についてわかりました。
しかし実際に、共同生活援助で個人単位で居宅介護を利用した場合、どれぐらい売上が上がって、収支差がどのようになるのでしょうか?
共同生活援助で個人単位で居宅介護を利用する特例は、介護負担が軽減して便利な分、収支構造が悪化する可能性があり注意が必要です。
収支構造を検討せずに特例を選択して、経営が不安定にならないよう対策が必要です。
以下では、共同生活援助で個人単位で居宅介護を利用する特例の、収支の具体例と改善方法をわかりやすく説明いたします。
GHで居宅介護等を利用する特例、赤字にならないのか?
重度の障害者の利用者に対して共同生活援助(障害者グループホーム)の中で、居宅介護等の利用が可能なら支援が容易になりますが、他方では支援の報酬単価がガクッと下がるので「採算があうのか」「最悪赤字になってしまうか」等の事前の試算が欠かせません。
(項目) | 利用者数4(区分4) | 利用者数5(区分4) | 利用者数6(区分4) |
売上:基本報酬 | 324,000円 | 405,000円 | 486,000円 |
売上:人員配置体制加算 | 100,800円 | 126,000円 | 151,200円 |
売上:夜間支援加算 | 403,200円 | 403,500円 | 403,200円 |
△人件費 | 716,000円 | 842,000円 | 940,000円 |
△諸経費 | 124,200円 | 140,175円 | 156,060円 |
収支 | −12,200円 | −47,675円 | −55,660円 |
前提2:人員配置体制加算は12:1
前提3:前年度夜間平均利用者は4人
前提4:人件費は常勤1を月給28万円と仮定+夜間1回8千円
前提5:必要人員配置は世話人と加配職員合計で4:1配置
前提6:諸経費は売上の15%
(項目) | 利用者数4(区分5) | 利用者数5(区分5) | 利用者数6(区分5) |
売上:基本報酬 | 367,200円 | 459,000円 | 550,800円 |
売上:人員配置体制加算 | 100,800円 | 126,000円 | 151,200円 |
売上:夜間支援加算 | 403,200円 | 403,500円 | 403,200円 |
△人件費 | 716,000円 | 842,000円 | 940,000円 |
△諸経費 | 130,680円 | 148,275円 | 165,780円 |
収支 | +24,520円 | −1,775円 | −580円 |
前提2:人員配置体制加算は12:1
前提3:前年度夜間平均利用者は5人
前提4:人件費は常勤1を月給28万円と仮定+夜間1回8千円
前提5:必要人員配置は世話人と加配職員合計で4:1配置
前提6:諸経費は売上の15%
(項目) | 利用者数4(区分6) | 利用者数5(区分6) | 利用者数6(区分6) |
売上:基本報酬 | 442,800円 | 593,500円 | 712,200円 |
売上:人員配置体制加算 | 100,800円 | 126,000円 | 151,200円 |
売上:夜間支援加算 | 403,200円 | 403,500円 | 403,200円 |
△人件費 | 716,000円 | 842,000円 | 940,000円 |
△諸経費 | 140,020円 | 168,450円 | 189,990円 |
収支 | +88,780円 | +112,550円 | +136,610円 |
前提2:人員配置体制加算は12:1
前提3:前年度夜間平均利用者は6人
前提4:人件費は常勤1を月給28万円と仮定+夜間1回8千円
前提5:必要人員配置は世話人と加配職員合計で4:1配置
前提6:諸経費は売上の15%
共同生活援助で個人単位で居宅介護等を利用する場合、殆どが区分6の利用者でないと、利益さえ残らないことがわかります。
区分4で利用者が4人の場合だけ損益分岐点を超えますが、後は区分6以外は赤字になることにご留意ください。。
実際は経費率が変わったり、夜間対象者数が減ったりするので、経営計画の見直しにはご注意ください。
今できること:自社で重度訪問介護も実施する
令和6年度の報酬改定の新しい単位では、共同生活住居の中で個人単位で居宅介護を利用する仕組みは基本的に収支が厳しいと分かったので、赤字収支構造の解決策は、その居宅介護事業等それ自体も自社で経営して利益率を上げることです。
(項目) | 利用者数4(区分4) | 利用者数5(区分4) | 利用者数6(区分4) |
売上:基本報酬 | 324,000円 | 405,000円 | 486,000円 |
売上:人員配置体制加算 | 100,800円 | 126,000円 | 151,200円 |
売上:夜間支援加算 | 403,200円 | 403,500円 | 403,200円 |
△人件費 | 716,000円 | 842,000円 | 940,000円 |
△諸経費 | 124,200円 | 140,175円 | 156,060円 |
収支(GH) | −12,200円 | −47,675円 | −55,660円 |
売上:重度訪問介護 | 1,155,520円 | 1,444,400円 | 408,480円 |
収支(重訪) | +216,082円 | +270,103円 | +324,123円 |
合算収支 | +203,882円 | +222,428円 | +268,463円 |
前提2:人員配置体制加算は12:1
前提3:前年度夜間平均利用者は4人
前提4:人件費は常勤1を月給28万円と仮定+夜間1回8千円
前提5:必要人員配置は世話人と加配職員合計で4:1配置
前提6:諸経費は売上の15%
前提7:区分4の上限時間を157時間とする(「大阪市支給決定基準整理表」を参照)
前提8:1回あたり4時間のサービス提供
前提9:重度訪問介護の収支差率は「令和5年度の障害福祉サービス等経営実態調査」における売上と人件費のみ勘案した収支差率に基づく
(項目) | 利用者数4(区分5) | 利用者数5(区分5) | 利用者数6(区分5) |
売上:基本報酬 | 367,200円 | 459,000円 | 550,800円 |
売上:人員配置体制加算 | 100,800円 | 126,000円 | 151,200円 |
売上:夜間支援加算 | 403,200円 | 403,500円 | 403,200円 |
△人件費 | 716,000円 | 842,000円 | 940,000円 |
△諸経費 | 130,680円 | 148,275円 | 165,780円 |
収支 | +24,520円 | −1,775円 | −580円 |
売上:重度訪問介護 | 1,302,720円 | 1,628,400円 | 1,954,080円 |
収支(重訪) | +243,609円 | +304,511円 | +365,413円 |
合算収支 | +268,129円 | +302,736円 | +364,833円 |
前提2:人員配置体制加算は12:1
前提3:前年度夜間平均利用者は5人
前提4:人件費は常勤1を月給28万円と仮定+夜間1回8千円
前提5:必要人員配置は世話人と加配職員合計で4:1配置
前提6:諸経費は売上の15%
前提7:区分4の上限時間を177時間とする(「大阪市支給決定基準整理表」を参照)
前提8:1回あたり4時間のサービス提供
前提9:重度訪問介護の収支差率は「令和5年度の障害福祉サービス等経営実態調査」における売上と人件費のみ勘案した収支差率に基づく
(項目) | 利用者数4(区分6) | 利用者数5(区分6) | 利用者数6(区分6) |
売上:基本報酬 | 442,800円 | 593,500円 | 712,200円 |
売上:人員配置体制加算 | 100,800円 | 126,000円 | 151,200円 |
売上:夜間支援加算 | 403,200円 | 403,500円 | 403,200円 |
△人件費 | 716,000円 | 842,000円 | 940,000円 |
△諸経費 | 140,020円 | 168,450円 | 189,990円 |
収支 | +88,780円 | +112,550円 | +136,610円 |
売上:重度訪問介護 | 1,435,000円 | 1,794,000円 | 2,152,800円 |
収支(重訪) | +268,382円 | +335,478円 | +402,574円 |
合算収支 | +357,162円 | +448,028円 | +539,184円 |
前提2:人員配置体制加算は12:1
前提3:前年度夜間平均利用者は6人
前提4:人件費は常勤1を月給28万円と仮定+夜間1回8千円
前提5:必要人員配置は世話人と加配職員合計で4:1配置
前提6:諸経費は売上の15%
前提7:区分4の上限時間を195時間とする(「大阪市支給決定基準整理表」を参照)
前提8:1回あたり4時間のサービス提供
前提9:重度訪問介護の収支差率は「令和5年度の障害福祉サービス等経営実態調査」における売上と人件費のみ勘案した収支差率に基づく
共同生活援助で個人単位で居宅介護等を利用する場合は、自社で居宅介護等も実施してしまえば利益率は改善し、売り上げも安定してキャッシュも出てきます。
今回は重度訪問介護を想定して厚生労働省の統計データを基に計算しましたが、実際は求人難や経費率の上昇など様々な課題があることにもご留意ください。
また自治体ごとに居宅介護等の上限時間がそれぞれ設定されているので、しっかり事前に調査して経営計画を立てることをお勧めいたします。
まとめ
共同生活援助を個人単位で利用する特例の収支構造について詳しく分かりました。ありがとうございます。
できれば自社で居宅介護等を運営して、共同生活援助と合わせて総合的な事業づくりが出来ればと思います。
共同生活援助を個人単位で利用する特例は便利な制度ですが、報酬単価が低く収益構造として赤字になりやすい体質です。
そこで重度訪問介護など自社で介護事業も実施すると収支構造は改善され、利益率は10%を殆ど超えるようになります。 ただし人材管理が大変であったり、経費が想定より高くなることもあったりするので、売上の数字だけでなく入念に経費分析をすることをお勧めいたします。
共同生活援助と居宅介護等を組み合わせて総合的な支援の仕組みを作り、自治体や利用者さんから信頼される組織を作ってください。
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