★★★記事執筆者のご紹介★★★
この記事は障害福祉事業専門で、国家資格者である行政書士の戸根裕士が作成しております。多数の顧問先様との仕事から得られた、実務に役立つ注意点をまとめました。
戸根行政書士事務所のプロフィールはこちらですので、よろしければ弊社の支援方針や独自の強みなどご覧ください。
就労継続支援A型B型を運営していて、今年度も生産活動が黒字になる見込みです。けれども、その生産活動の余剰金の処理が、複雑でよく分かりません。
そこでお尋ねしたいのですが、就労継続支援A型B型の生産活動が黒字になった場合、どのような対応を検討していけば良いでしょうか?
就労継続支援A型B型の生産活動会計は赤字になってはいけませんが、他方で黒字になり過ぎても問題があります。
何よりも利用者の労働により貢献した生産活動売上を、利用者還元を優先して順番通りに対応するという視点が大切です。
この記事では事業者様の理解の一助になるように、以下の内容を説明いたします。
- 就労支援事業会計の黒字の場合の対応の概要がわかります
- 余剰金を積立する各種のルールがわかります
- 就労支援事業会計が黒字になった際の対応の手順がわかります
目次
【就A/就B】就労支援事業会計:生産活動が黒字になった時の対応とは?対処法を解説
就労継続支援A型や就労継続支援B型の就労支援事業会計の内、生産活動に関する会計は原則として利益(から経費を除いて)全額を利用者に支給する必要がありますが、全額支給できずに黒字になった場合は一時金か積み立てを行う必要があります。
<生産活動が黒字の対応1:一時金を支給する>
・年度末までに余剰金を全額利用者に分配いたします
・一時金という名目で行うことが多いです
・一時金の取り扱いや分配ルールについては賃金規程もしくは工賃規程に記してください
・受け取る金額により、生活保護や障害年金受給にも関係するので、事前に利用者と相談してください
<生産活動が黒字の対応2:積立を行う>
・積立の名目は、「将来の賃金や工賃支給のための原資」とするためか、他方で「将来の生産活動の設備投資に充てること」に別れます
・積立金の年度ごとの限度額やトータルの積立上限額など、各々の目的により制限があります(以下の表をご覧ください)
・積立金を計上したり、また取り崩す際は会社法に則って理事会等の決議が必要になります
・積立金は原則、それ専用の積立金口座で管理いたします
・各々の事業所ごとに積立されます
(積立金の目的) | (年度ごとの積立限度) | (積立上限) |
将来の賃金や工賃支給のため | 過去3年間の賃金・工賃の10%以内 | 過去3年間の賃金・工賃の50%以内 |
将来の生産活動の設備投資のため | 生産活動収入の10%以内 | 設備投資の対象の資産の75%以内 |
就労継続支援A型B型の生産活動会計が黒字になった場合の対応の概要についてわかりました。
しかし実際に特に対応2の積立金を行う場合の細かい会計処理がわからないので、どのような点に注意して活用すればよろしいでしょうか?
生産活動の黒字を正当化するために、一時金の支給や積立金を行う場合はルールに則ることが大切です。
事前からしっかりと計画を立てて、利用者さんに納得してもらう処理をすることが一番です。
以下では生産活動が黒字になった場合の対応の詳細について、わかりやすく説明いたします。
生産活動の収益を積立する際の注意点
就労継続支援A型B型の生産活動会計が黒字になった場合、一時金で解消できないと積立金の選択肢になりますが、積立限度額や積立上限の他に詳細なルールが告示されていることにご注意ください(※以下では「平成19年5月30日「就労支援事業の会計処理の基準」に関するQ&Aについて」を参照して説明いたします)。
<1:両方の積立金に共通の注意点>
・別口座で管理する
・積立を実施する際は、理事会等の承認を必要とします
・積立のタイミングとしては、決算時の理事会の議決を得て、決算年度の翌年度の予算を補正して積み立てます(つまり積立金の積み立てを議決した決算の年度と、実際に積み立てる年度は、1年度ずれることになります)。
<2:「将来の賃金や工賃支給のための積立」の注意点>
・新設法人は2年度目から積立が可能です(前年度実績により)
・積立金に充てる純粋な余剰資金の現金が必要です
・積立を取り崩した場合はその補填分も含めて当年度の工賃とします
<3:「将来の生産活動の設備投資のため積立」の注意点>
・積立対象の就労支援事業資産に建物は含まない
・就労支援事業資産の対象は、5年以上は就労支援事業の用に充てることができ、5年以上の積立によらないと取得できないものです
・就労支援事業資産に単体のパソコンは対象となりませんが、1組の装置の一部として用件を満たすなら対象になります
生産活動の黒字金額を積立する際は、積立議決年度と積立年度が異なることにご注意ください。
また設備投資のための積立の対象物についても、「5年以上」という基準を超えているか、しっかり検討することが大切です。
特にパソコンなどを購入する場合は、他の装置と同時に購入して1組と扱っておくことがポイントです。
今できること:生産活動が黒字になりそうな時に順番通りに考えましょう
就労継続支援A型B型の就労支援事業会計で、当該年度で生産活動が黒字になる可能性が高い場合、すぐに「一時金」や「積立」を考えるのではなく、順番通りに慎重にどの選択肢が経営にとって最も都合が良いのか検討することが大切です。
<生産活動が黒字になった場合の検討順>
1:生産活動の経費を見直す:経費算入が適切かどうか再チェックします
↓
2:専ら生産活動に従事する職員の確認:対象者がいる場合は、その人件費を生産活動経費に入れます
↓
3:一時金の検討:利用者に賃金もしくは工賃の一時金の支給を検討いたします
↓
4:積立金の検討:将来の賃金または工賃か、設備投資のための積立金を検討いたします
生産活動会計が黒字になる可能性が高い時、まず経費算入できる費用があるか確認と、正確に按分経費を処理できているかチェックが大切です。
生産活動の経費算入金額として大きいのは、従業員の給与なので、事業所人員配置を正確に把握してその余剰分を検討しましょう。
そして積立金の実施よりも先に利用者へ一時金を支給する方が先行することにご注意ください。
まとめ
就労継続支援A型B型の生産活動の黒字余剰金の処理について詳しく分かりました。ありがとうございます。
まず利用者への賃金又は工賃による還元を最優先に考えたいと思います。
生産活動が黒字になった場合の対応はいくつかありますが、注意が必要なのが、詳細な条件がある積立金の対応です。
限度額や積立対象、また取り崩しルールも複雑で、近年は実地指導でよく注意があるので再確認ください。 また積立金の他にも、一時金による支払いなど利用者還元の方法があることにもご留意ください。
ルールを守って適切に就労支援事業会計を管理することで、自治体や利用者さんから信頼される組織を作ってください。
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