
★★★記事執筆者のご紹介★★★
この記事は障害福祉事業専門で、国家資格者である行政書士の戸根裕士が作成しております。多数の顧問先様との仕事から得られた、実務に役立つ注意点をまとめました。
戸根行政書士事務所のプロフィールはこちらですので、よろしければ弊社の支援方針や独自の強みなどご覧ください。

就労継続支援A型事業所を運営していますが、「就労移行支援体制加算」の算定に再就職した方も対象になると知りました。ただ「勤続6ヶ月」のルールに違反しないか心配です。
そこでお尋ねしたいのですが、転職者に対して「就労移行支援体制加算」を算定する時の注意点を詳しく教えていただけますでしょうか?
そもそも障害者の一般就労は職場定着に課題があり、短期間のうちに再就職する可能性が少なくありません。
そのような再就職をしたからといって、「就労移行支援体制加算」の算定が出来なくなることはありませんが、細かい条件があります。
この記事では事業者様の理解の一助になるように以下の内容を説明いたします。
- 「就労移行支援体制加算」の最就職者適用ルールがわかります
- 「就労移行支援体制加算」を安全に算定するための対策がわかります
- 「就労移行支援体制加算」を算定するために、事業所が今できることがわかります
目次
【注意】転職した時の「就労移行支援体制加算」とは?間違えやすいポイントを解説

就労継続支援A型B型の収益を支える「就労移行支援体制加算」は、就職した利用者が6ヶ月間勤続することが条件ですが、一定のルールの下でその6ヶ月間に転職した場合でも加算算定が可能になります。
<加算要件「勤続6ヶ月」における転職ルールについて>
・離職後、1ヶ月以内に再就職したら、最初の就職から起算して6ヶ月あるとみなすことができます
・6ヶ月間は、就労継続支援A型B型の職場定着支援の努力義務期間でないといけません
・転職において、労働条件改善のための転職支援をしていないといけません
「就労移行支援体制加算」の勤続6ヶ月の例外ルールの概要についてわかりました。
ただ実際に元利用者が転職した場合、「就労移行支援体制加算」を算定するには、どのような点に注意して活用すればよろしいでしょうか?
まず「就労移行支援体制加算」を算定するために大切なことは、離職後1ヶ月以内に転職しているかどうかです。
しかし見逃されがちなポイントは、就労継続支援A型B型の職場定着または改善支援の有無です。
以下では「就労移行支援体制加算」の例外ルールと戦略をわかりやすく説明いたします。
注意:就労支援事業所の労働条件改善支援が必要です

就労継続支援A型B型で「就労移行支援体制加算」を算定するときに、元利用者が1ヶ月以内に転職したら「勤続6ヶ月ルール」は有効になりますが、その前提として、就労支援事業所の労働条件改善支援が必要なことにご注意ください(※つまり労働条件改善支援をしていないと加算算定できないリスクがあります)。
(支援内容) | (就労支援事業所の労働条件改善支援) | (根拠資料) |
賃金改善 | 利用者Aが、最低賃金ギリギリでフルタイム勤務も難しい企業に就職したが、「生活できない」と訴える。事業所が求人情報を検索し、近隣で月給制・週休2日の求人を紹介し、面接調整・履歴書作成支援等を行った。 | ◎支援記録(聞き取り・求人選定・履歴書添削・面接練習) ◎求人票等のエビデンス ◎再就職先の就労条件(労働時間・賃金) |
労働時間 | 利用者Bが、週3日・1日4時間勤務の契約で働いていたが「もっと長く働きたい」と要望。事業所がフルタイム求人を紹介し、見学同行。実際に週5日・6時間勤務の企業に再就職。 | ◎聞き取り記録と求人比較 ◎再就職後の勤務実績記録 |
キャリアアップ | 利用者CがA型経由で清掃会社に就職。単調作業に不満があり、別業種(接客業)に興味あり。事業所が適性評価と職業興味検査を実施し、適した求人(カフェスタッフ)を紹介。 | ◎職業興味検査や適性検査(例:GATB) ◎キャリア面談記録 |
障害配慮 | 利用者Dが就職先で「周囲が配慮してくれず辛い」と訴える。事業所が本人から詳細を聴取し、再就職先として障害者雇用に理解のある企業を提案、ジョブコーチ同行。 | ◎本人からのヒアリング記録 ◎合理的配慮の課題と希望の記録 |
契約形態 | 利用者Eが業務委託的な不安定な就業形態で、週2日のシフトが続いていた。本人希望により正規雇用への移行を希望し、事業所が職場変更を支援。 | ◎契約形態の記録・求人票 ◎希望とギャップの可視化 |
「就労移行支援体制加算」の算定で散見されるのが、1ヶ月以内の転職をしていても労働条件改善等の支援をしていない事例です。
就労支援事業所による労働条件改善等の支援をしていない場合、「就労移行支援体制加算」の算定が否定される可能性もあるので注意いたしましょう。
またどのように労働条件改善等の支援を行なったかの根拠資料を残しておくことも大切です
今できること:就職後の定着支援を実施しておく

就労継続支援A型B型の「就労移行支援体制加算」の算定を確実にするために、離職後の再就職も想定して、就職後すぐから全員に対して定着支援を実施して、「労働条件改善支援」の前提を作っておくことが安全です。
(項目) | (就労定着支援) |
定期的な聞き取り | 「賃金が生活費に足りていない」といった声を拾う月1回面談 |
家計支援アドバイス | 金銭管理や生活設計相談(家賃・公共料金等) |
就労継続可能性の確認 | フルタイム勤務に耐えられる体調か等のヒアリング |
転職が必要な場合の事前助言 | 「他の求人も一緒に検討しませんか」などの声かけ |
勤務実績ヒアリング | 「もっと働きたいけどシフトが増えない」との訴えを拾う |
企業との調整支援 | 現職場での労働時間拡大が可能か相談 |
業務適正評価 | 「集中力が3時間以上持続する」など職業評価を実施 |
転職の方向性の整理 | 本人と一緒に「週何時間、どの時間帯が希望か」明確化支援 |
職務満足度調査 | 「今の仕事が退屈」「やりがいが欲しい」といった声を確認 |
興味関心の見える化 | 職業興味検査(VRTカード、GATBなど)実施 |
キャリア面談 | 「3年後どうなっていたいか」など中長期の方向性面談 |
企業連携 | 興味職種の見学・体験のアレンジ(例:接客体験) |
定期ストレスチェック | 「職場が合わない」「上司に怒られる」といった心情を確認 |
合理的配慮チェックリスト | 事業所内で配慮不足項目の洗い出し |
企業との中間面談 | 「配慮の再確認」を名目に本人・企業・事業所での三者面談 |
ジョブコーチ派遣 | A型事業所職員が職場訪問し、環境改善を支援 |
雇用形態チェック | 業務委託/登録型派遣等で、収入が不安定な点を把握 |
就業日数・給与管理 | 日々の勤務実績を共有し「このままでは生活できない」ことを可視化 |
転職意思の確認 | 「正社員を目指したい」という本人の意思確認 |
就労相談記録の蓄積 | 上記の状況を支援記録に明記し、転職支援につなげる布石とする |
「就労移行支援体制加算」を確実にするためには、転職の可能性が全員あるという前提に立って、就職者に対して職場定着支援を行なっておくことです。
職場定着支援に関して報酬対象ではありませんので、電話やメールなど負担がない形で実地していただければと思います。
職場定着支援を行なっておくことで、転職の際はスムーズに労働条件改善の支援を行なって「就労移行支援体制加算」を算定することができます。
まとめ

「就労移行支援体制加算」の再就職者適用ルールについて詳しく分かりました。ありがとうございます。
職場定着支援を実施して、転職の際に労働条件改善支援を行えるよう検討いたします。
就労継続支援A型B型の「就労移行支援体制加算」は、再就職者にも適用することができます。
ただし条件として、就労支援事業所が労働条件改善支援を行なうことによる再就職でないといけません。 このような労働条件改善支援を適正に行うために、努力義務と言えども、就職後の職場定着支援を実施することをお勧めいたします。
「就労移行支援体制加算」を適正に算定し、自治体や利用者さんから信頼される組織を作ってください。
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