
★★★記事執筆者のご紹介★★★
この記事は障害福祉事業専門で、国家資格者である行政書士の戸根裕士が作成しております。多数の顧問先様との仕事から得られた、実務に役立つ注意点をまとめました。
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障害福祉事業を運営していますが、処遇改善加算の実績報告書が不可になって進みません。前年度と比べてスタッフに変動があり、改善前の賃金増額が前年度の方が高くなってしまいます。
そこでお尋ねしたいのですが、処遇改善加算の実績報告で、基準前の賃金総額が下がっている場合、どのように調整すれば良いでしょうか
賃金総額が当該年度の方が減っていれば、改善前の基準額を下げたと見做されるので、スタッフ数の相違を原因とする賃金調整が必要になります。
その賃金調整について、一応は厚生労働省のQandAで示されていますが、詳細に計算を進めると困難に直面することが多いです。
この記事では事業者様の理解の一助になるように以下の内容を説明いたします。
- 処遇改善加算の実績報告がスムーズに終わるポイントがわかります
- 前年度賃金総額を調整する計算方法の注意点がわかります
- 前年度賃金総額の調整を前提とした日常的な配分管理の要点がわかります
目次
【要注意】処遇改善加算の実績報告:職員の減少や入れ替わり?賃金総額の整合性は

障害福祉事業の処遇改善加算の実績報告は、前年度と比較して「賃金改善以外の基礎的な賃金水準」を引き下げていないことを証明しないといけませんが、人数等の増減により額面が「前年度>報告年度」になっていると、年間の額面給与総額を調整する必要があります。
問1ー2 | 前年度から事業所の福祉・介護職員等の減少や入れ替わり等があった場合、どのように考えればよいか |
答 | 実績報告書の ①「令和7年度の加算の影響を除いた賃金額」 と②「令和6年度の加算及び独自の賃金改善の影響を除いた賃金額」 の比較は、処遇改善加算及び旧3加算並びに交付金等による賃金改善以外の部分で賃金水準を引き下げていないことを確認するために行うものである。 一方で、賃金水準のベースダウン(賃金表の改訂による基本給等の一律の引下げ)等を行ったわけではないにも関わらず、事業規模の縮小に伴う職員数の減少や職員の入れ替わり(勤続年数が長く給与の高い職員が退職し、代わりに新卒者を採用した等)といった事情により、上記①の額が②の額を下回る場合には、②の額を調整しても差し支えない。 この場合の②の額の調整方法については、例えば、 - 退職者については、その職員が、前年度に在籍していなかったものと仮定した場合における賃金総額を推計する - 新規採用職員については、その者と同職であって勤務年数等が同等の職員が、本年度に在籍したものと仮定した場合における賃金総額を推計する 等の方法が想定される。 |

<処遇改善QA問1ー2のポイント>
・金額の調整対象は、実績報告年度の前年度の賃金総額。
→つまり「実績報告年度の賃金が増額している状況」は操作いたしません。
・勤続年数等の人事評価対象ごとの人数の増減を考慮に入れます。
→単に人数の増減で考慮いたしません。
処遇改善加算の実績報告時の賃金調整についてわかりました。
ただ、理屈としてはわかるのですが、実績報告の書式に記入する場合に、どのようなポイントに注意し、どのような対策が有効か教えてもらえるでしょうか?
処遇改善の賃金調整を実績報告に落とし込む時の注意点は、受領額と改善額の差を正確に把握することです。
加えて、処遇改善の賃金改善による社会保険等の上昇分も、改善額に入れていると計算は一層複雑になります。
以下では、実績報告に記入するための処遇改善の賃金調整方法をわかりやすく説明いたします。
前年度賃金総額の調整:計算方法の様々な注意点

障害福祉事業の処遇改善加算の実績報告書は、当該年度は「改善額」(つまり受領額+上乗せ分)に対し、前年度は「受領額」(=通知書金額)と「独自の賃金改善額」(=上乗せ分)が分かれているので、そのことを考慮して前年度の賃金総額を調整する必要があります。
<前年度賃金総額の計算の注意点>
・前年度賃金総額から控除する、余剰人員(つまり前年度の方が多い分)の金額は、改善前の基本給(=賃金合計ー改善額[受領額分配額+独自の改善])だけにします。
・「独自の賃金改善額」の欄に、年間改善額合計から年間受領額を引いた上乗せ額も記載し、控除いたします。
・「独自の賃金改善額」の欄に、余剰人員分を除いた対象人員の社会保険等の上昇金額(会社負担分)を記入します。
・社会保険等の上昇金額を概算で計算している場合は、余剰人員分を除いた対象人員の改善総額に対して再計算する必要があります。
処遇改善加算の実績報告の前年度賃金総額調整は、厚生労働省のQAの事例ほど単純で簡単なものではありません。
特に、通知書に記載された受領額に付加された「独自の賃金改善額」を正確に扱えるかが重要になります。
社会保険等の上昇金額を改善額に入れている事業所は、より計算が複雑になるのでご注意ください。
今できること:賃金調整を前提にした管理方法の検討

障害福祉事業の処遇改善加算の実績報告は、前年度の賃金総額を調整するとなると、計算方法がかなり複雑になってくるので、日常的な処遇改善加算の分配管理の時点から、賃金総額の調整が容易にできる準備をしておくことをお勧めいたします。
<賃金総額の調整を前提にした改善額の分配管理について>
・従業員ごとに、改善前の賃金額と、追記される改善額を分けて管理する。
・社会保険等の上昇金額(会社負担分)も改善額に入れるのなら、概算で計算するか人別で計算するか決めておく
・上記が概算の場合でも、毎月人別に概算上昇額を把握しておくと計算が簡単になります。
・実績報告の時に「独自の賃金改善額」を適正に記せるよう、処遇改善に関する規程を詳細に就業規則等に記しておく。
・前年度の賃金総額を調整する場合はその計算過程を詳細にメモで残しておく。
事前の準備がなく、処遇改善加算の実績報告の時点で、前年度の賃金総額を調整しようとすると、かなり負担があります。
社労士や税理士の先生は、処遇改善加算の管理を十分に知らない場合があるので、会社独自でエクセル等で管理しておくと安心です。
また社会保険等の上昇金額(会社負担分)の改善額への算入方法は、概算か否かで決定的に異なってくるので事前にしっかりと決めておきましょう。
まとめ

処遇改善加算の実績報告時の賃金調整計算方法について詳しく分かりました。ありがとうございます。
実績報告時に混乱しないように日常的に管理していきたいと思います。
障害福祉事業はスタッフの変動も少なくないので、処遇改善加算の実績報告時に前年度賃金調整をしないと、申請却下になることが多いです。
賃金調整で難しいのは、前年度実績から余剰分のスタッフの賃金を省く場合で、事業所独自の賃金改善を正確に把握することが大切になります。 社会保険等の上昇金額(会社負担分)も正確に指定権者に説明する必要があるので、就業規則等の条文の内容は詳細にしておいた方がいいです。
処遇改善加算の制度変更に順応して、自治体や利用者さんから信頼される組織を作ってください。
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