障がい者の就労継続支援事業所を運営して、処遇改善加算に加えて特定処遇改善加算を算定しています。処遇改善加算では支給額の上乗せの他に、その上乗せによる社会保険料の増額の会社負担分も改善額に含めると聞きました。
そこでどのように処遇改善加算等の社会保険料の増額分を計算すれば良いか教えてもらえますか?
処遇改善加算の改善額への保険料の負担分は「法定福利費等の事業主負担分の増加」と言われています。
もし保険料の負担分の増額分の計算を間違えていれば、実績報告で改善できていない恐れがあり実地指導でトラブルになる危険があります。
この記事では事業者様の理解の一助になるように以下の内容を説明いたします。
- 処遇改善加算等の社会保険料の計算のポイントがわかります
- 法定福利費等の事業主負担分の増加の計算方法の類型がわかります
- 自社に適した社会保険料の計算方法がわかります
目次
処遇改善加算等の社会保険料の計算の仕方とは?改善額の組み入れの要点
障害福祉事業の処遇改善加算等の賃金改善では、賃金を改善したことにより、保険料等の基礎となる等級が上がり、事業主負担が増加した場合の「改善前の負担額」と「改善後の負担額」の差額も、賃金改善の一部とみなすことができます。
<「法定福利費等の事業主負担分の増加」とは>
・健康保険料
・介護保険料
・厚生年金保険料
・子ども・子育て拠出金
・雇用保険料
・労災保険料
⇨上記の科目の賃金上昇分に応じた事業主負担増加分
+賃金上昇分に応じた外形標準課税の付加価値増加分
<「法定福利費等の事業主負担分の増加」の計算方法とは>
厚生労働省からの指示は「法定福利費等の計算に当たっては、合理的な方法に基づく概算によることができる」のみで具体的な計算方法は指定されていません。
※4,5,6月をベースに9月に定時改定されますが、10月以降は翌年に定時改定され、年度を跨ぐゆえに具体的な方法は特定されません。
※「合理的な方法」として推奨されている例
・各人の賃金改善額に実態上の各保険の料率をかけて算出する
・事業所全体の賃金改善額に実態上の各保険の料率をかけて算出する
障がい者事業の処遇改善加算等の「法定福利費等の事業主負担分の増加」の概略について理解いたしました。
ただ実際に社会保険料の増額の計算はとても複雑だと思うのですが、実地指導でトラブルなく改善額を提示できるために、「事業主負担分の増加」の計算方法のポイントなど教えていただけるでしょうか?
「法定福利費等の事業主負担分の増加」の計算方法は唯一の方法がなく、また厚生労働省からも特定の方法を指定されているわけではありません。
ただ合理的に増加額を算出していないと、賃金改善とは見做されずに実地指導でトラブルになります。
以下では処遇改善における社会保険料の増額分の計算方法のポイントについてわかりやすく説明いたします。
月次の賃金改善による社会保険料の計算方法
障害福祉事業の処遇改善加算等で社会保険料も賃金改善に組みれることができますが、月毎に基本給昇給や手当追加で賃金改善を行う場合は、その改善による社会保険料の増加分だけ追加することができます。
※月次の賃金改善による社会保険料増額の算出のポイント
・1人1人改善額で計算するか、全員の改善額の合計で計算するか検討する
・保険制度の加入者と非加入者の割合に大きな差があるか検討する
<例1:全員の改善額(200万円)に各種保険の料率をかける>
・健康保険料 :200 × 0.1029 × 0.5 = 10.29万円
・厚生年金保険料 :200 × 0.183 × 0.5 = 18.3 万円
・雇用保険料 :200 × 0.0095 = 1.9 万円
・労災保険料 :200 × 0.0003 = 0.06万円
・子ども・子育て拠出金:200 × 0.036 = 7.2 万円
⇨合計 37.75万円
※上記「全員の改善額に各種保険の料率をかける」のデメリット
・非常勤の従業員によっては雇用保険や労災保険に加入していない場合がある
・ただし1人1人計算をすると膨大な事務的な負担がかかる
<例2:前年度の実績により今年度の増額分を計算する>
・前年度の法定福利費等の「事業主負担分の総額」:300万円
・前年度の「賃金の総額」 :1000万円
・今年度の「賃金改善実績額」 :1200万円
⇨300万円 ÷ 1000万円 × 1200万円 = 360万円/年間(30万円/月)
※上記「前年度の実績により計算する」のデメリット
・前年度の改善率と今年度の改善率が異なっていると正確ではなくなる
・一度は基準となる「事業主負担分」を正確に算出しないといけない
上記の二つの例から分かるように処遇改善加算における社会保険料の増額の事業主負担分を正確に計算することは大変難しいです。
それゆえに上記のような「合理的な計算方法」が推奨されていますが、ある程度の実態との乖離はやむをません。
それゆえに社会保険料の事業主負担分を入れてギリギリ全体の賃金改善をクリアできる計画は、その事業主負担分の計算が間違えていると否認されるリスクがあることにご注意いたしましょう。
賞与の賃金改善による社会保険料の計算方法
障害福祉事業の処遇改善加算等で社会保険料も賃金改善に組みれることができますが、賞与で賃金改善を行う場合はその改善による社会保険料の全額(事業主負担分のみ)を追加することができます。
<賞与で100万円賃金改善した場合(令和5年度、大阪)>
・健康保険料 :50,421円
・厚生年金保険料 :89,670円
・雇用保険料 :9,500円
・労災保険料 :3,000円
・子ども・子育て拠出金:36,000円
⇨合計 188,591円
賞与の社会保険料等の事業主負担分の増額の算出は、月次の増額計算に比較して容易であることがわかると思います。
それゆえ賞与の改善額だけ社会保険料の事業主負担の増額を計算し、実績報告の時に通常の改善に上乗せしている事業所様も少なくありません。
実地指導の時のために算出した根拠となる計算式等を保存しておきましょう。
「月次改善」と「賞与改善」のどちらを選ぶか
処遇改善加算等を算定し保険料の増額分(事業主負担)を改善額に組み入れる場合、改善の目的または事務的な負担の量を考慮して慎重に選ぶことをお勧めいたします。
<「月次改善」もしくは「賞与改善」の選択事例>
事例1 社会保険料の計算をシンプルにしたい →「賞与改善」
事例2 サビ管に処遇改善の代わりに特定加算を支給したい →「月次改善」
事例3 大半の職員が常勤 →「月次改善」
事例4 年度によって支給額が大きく変わる →「賞与改善」
社会保険料の上昇分を最もシンプルに計算する方法は賞与で処遇改善を与えることです。
ただ実態としては月次改善の方が従業員の方に喜ばれるので社会保険料の計算を合理化する方法を模索いたしましょう。
場合によっては法定福利費等の事業主負担分の増加を組み入れず、賃金改善の要件を満たすようにした方が安全かもしれませんのでご検討ください。
まとめ
処遇改善加算の賃金改善による社会保険料の上昇分の計算について詳しく分かりました。ありがとうございます。
まずはどのパターンで法定福利費等の事業主負担分の増加の計算をするか適切に選んでいきたいと思います。
「法定福利費等の事業主負担分の増加」の計算に正解はなく、保険の加入状況や前年度比などを検討して合理的な方法を検討する必要があります。
1人1人計算すれば確実な数値が出ますが、事務的負担の軽減から全体の概算を算出する場合は根拠となる計算書類を保存しておきましょう。状況によっては社会保険料の増額分の組み込みなしで賃金改善の基準を満たすよう調整する方が良いこともあります。
しっかりと処遇改善加算の「法定福利費等の事業主負担分の増加」の合理的な計算方法を選択し、地域社会や関係機関からも信頼される事業拡大を行なってはいかがでしょうか。
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