★★★記事執筆者のご紹介★★★
この記事は障害福祉事業専門で、国家資格者である行政書士の戸根裕士が作成しております。多数の顧問先様との仕事から得られた、実務に役立つ注意点をまとめました。
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令和6年度から障害福祉事業所で処遇改善加算の制度が大きく変わると聞きました。ただ新制度が複雑で、どの手順で対応していけばいいかわかりません。
そこで新しい処遇改善加算を適切に算定するために、私たちの障がい福祉事業所はどのような改善方法と支給管理をすればいいか詳しく教えていただけますでしょうか?
令和6年度から処遇改善加算は加算率のアップと効率化のために制度が大きく変わります。
しかし制度変更された加算額を適切に従業員の方に分配していないと、実地指導の時など自治体とトラブルになる可能性があります。
この記事では事業者様の理解の一助になるように以下の内容を説明いたします。
- 令和6年度の処遇改善加算の概要がわかります
- 新しい処遇改善加算を算定するために今何をすべきかわかります
- 新しい処遇改善加算を適切に管理と支給するためのポイントがわかります
目次
【令和6年報酬改定】新しい処遇改善加算とは?改善方法から支給額の管理まで解説
令和6年度の報酬改定により障害福祉事業所の処遇改善加算は、かつての3種類の加算(処遇/特定/ベア)から簡素化され、全部まとめて一本化されて加算率が引き上げられ、職員の待遇をより改善する機会が訪れます。
<処遇改善加算の基本について>
・処遇改善受領額より1円でも多く、賃金等として職員へ還元する必要があります
・福祉介護職員だけでなくその他職員にも全員もしくは一部の方に還元できます
・↑派遣職員や出向者、または業務委託職員にも還元可能です
・↑ただし代表役員へは処遇改善受領額を分配できません
・労働対価以外の名目(例:住宅手当など)で処遇改善受領額を分配できません
・連続した12ヶ月で改善いたします
・改善の最終期限は入金月の翌月まで(=翌年6月末まで)になります
・賃金改善額が加算額を下回った場合は加算額は返戻の対象になります
・↑ただし追加的に従業員に一時金や賞与等で分配すれば返戻の必要はありません
<処遇改善加算の各々の論点まとめ>
・【旧】福祉・介護職員処遇改善加算とは?条件・注意点を解説
・【旧】福祉・介護職員「特定」処遇改善加算とは?条件・注意点を解説
↓ここから
・【注意】処遇改善加算の対象職種とは?注意点も徹底解説
・【注意】処遇改善キャリアパス要件を満たすとは?記述例・失敗例あり
・【基本】賃金改善の方法をわかりやすく解説:トラブル防止の注意点もあり
・【注意】処遇改善加算等の社会保険料の計算の仕方とは?改善額の組み入れ
(加算種類) | 賃金体系の整備と研修 | 月額賃金改善 | 資格勤務年数による昇給 | 年額440万以上(1人) | 介福等の配置 |
新加算I | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
新加算II | ○ | ○ | ○ | ○ | ー |
新加算III | ○ | ○ | ○ | ー | ー |
新加算IV | ○ | ○ | ー | ー | ー |
(加算種類) | 就労継続支援A型 | 就労継続支援B型 | 共同生活住居 | 児童発達支援 | 放課後等デイ |
新加算I | 9.6% | 9.3% | 14.7% | 13.1% | 13.4% |
新加算II | 9.4% | 9.1% | 14.4% | 12.8% | 13.1% |
新加算III | 7.9% | 7.6% | 12.8% | 11.8% | 12.1% |
新加算IV | 6.3% | 6.2% | 10.5% | 9.6% | 9.8% |
令和6年度から制度が変わる新しい処遇改善加算の概略がわかりました。
そこで速やかに新しい処遇改善加算の制度に対応するよう賃金改善したいと思うのですが、どのような点に注意すれば実地指導でも問題なく運営できるでしょうか?
ポイントは現在どのように賃金改善していて、これからどのように賃金改善したいか、自分たちの状況を確認することです。
令和6年度の報酬改定により加算受領額が大きくなるので、受領額の管理と支給方法の適正化がポイントになります。
以下では新しい処遇改善加算を適正に算定するために、段階ごとの処遇改善加算の改善方法と支給管理についてわかりやすく説明いたします。
1.現行維持の場合:月次賃金改善を工夫する
令和6年度より始まる処遇改善加算は、IからIVのどの段階の処遇改善加算を算定していても、IVの加算額の半分以上は月次で従業員に「基本給」または「毎月支払われる手当」により改善しないといけないので、月次賃金改善の工夫がポイントになります。
(加算種類) | 就労継続支援A型 | 就労継続支援B型 | 共同生活住居 | 児童発達支援 | 放課後等デイ |
新加算IV | 6.3% | 6.2% | 10.5% | 9.6% | 9.8% |
IVの半額 | 3.15% | 3.1% | 5.25% | 4.8% | 4.9% |
売上100万の場合 | 31,500円 | 31,000円 | 52,500円 | 48,000円 | 49,000円 |
<月次賃金改善のポイント>
・IVの解散額の半分以上を正確に管理して改善する
・加算額が確定するサービス提供月の翌々月に改善すれば安全です
・改善方法は改善額が明瞭になる新設手当の支給がわかりやすいです
・これまで支払った一時金等の額を減らし月次改善に充てることができます
・↑その場合収入が減る職員がいても問題ありません
※「毎月支払われる手当」とは
・労働と直接的な関係が認められ、個人的な事情とは関係のない手当のことです
・毎月支払われれば月毎に変動しても問題ありません
・通勤手当や扶養手当は当てはまりません
令和6年度から加算IVの半額以上が月次改善になるため、これまで一時金等で大半の加算を支給していた事業所は大きな見直しが必要です。
これまでベースアップ加算で月次改善してきた事業所も、その加算額の約3倍程度は支給額を上げないといけないので管理の工夫が大切になります。
出来るだけ月次の額を少なくして一時金等で支払いたい場合は、支給月を遅らせて無駄のないようにいたしましょう。
2.上位加算を狙う場合:キャリアパス要件を整理する
令和6年度より始まる新しい処遇改善加算でより上位の加算を狙っていく場合は、任用要件や賃金体系だけではなく、経験/資格/その他仕組みにより昇給する仕組みを設定いたしましょう(※令和6年度は誓約により未対応でも可能です)。
<経験/資格/その他仕組みによる昇給制度のポイント>
・昇給金額を一律にせず「〇〇円〜〇〇円」と幅を持たせておきましょう
・昇給方法は基本給や手当など柔軟に設定しておきましょう
・「その他仕組み」に法人による成績評価を入れておき法人の自由度を高めましょう
・就業規則等に反映させる場合は労基への届出を忘れないようにいたしましょう
・昇給制度に見直しの時期を定めておき誰しもが昇給判定を受けられるようにいたしましょう
・昇給反映時期を決めておき雇用契約書等の変更の準備もいたしましょう
令和6年度から処遇改善で上位を狙う場合は、昇給体系の整備が必要ですが令和6年度は未対応でも誓約すれば猶予が与えられます。
昇給制度を設定することは会社経営の収支予算にも影響が出ることであり、時期を慎重に選ぶことが大切です。
昇給判定基準を明確にしておけば全社員のモチベーションも上がるので、これを支援力アップの機会にしてください。
3.ベア加算未取得だった場合:月次賃金改善を管理する
令和6年度の報酬改定により処遇改善加算を使って月次改善を始める場合、現行のベースアップ等加算に相当する額の3分の2以上を月次で従業員に払って改善いたしましょう。
<月次改善のポイント>
・前年度実績によりある程度の見込み額を設定しておきましょう
・3分の2を超えているか判定する必要があるので改善額は千円単位で決めておくと楽です
・サービス提供量が従来より増えたと感じる時は支給額を増額する準備をいたしましょう
・↑のために処遇改善計画書では月次改善金額の予定に「〇〇円〜〇〇円」と幅を持たせておきましょう
令和6年度の報酬改定により、ベア取得事業所でも処遇改善IVの半額に相当する額を月次で改善するように義務付けられることになります。
ただし令和7年は処遇改善加算IVの半額相当の月次改善要件は未実施でも問題ないのでご安心ください。
月次改善は金額の推定と改善管理が重要になってくるので気をつけましょう。
※令和7年までの特別措置について
令和6年障害福祉の報酬改定により処遇改善加算額が大幅に上昇するので、令和6年度に関しては事業所の負担を軽減するための様々な対処が講じられているので注目いたしましょう。
<特別措置1:令和7年度分の前倒し賃上げ>
2年連続急激な賃上げになり事業所負担が大きくならないように、令和7年度分の賃金改善の一部を令和6年度に当てることができます。それにより令和6年度の加算額の一部を令和7年度に繰り越して賃金改善することができます。
<特別措置2:新加算Vという原稿維持の選択肢>
新しい処遇改善制度による激変緩和措置として、現行の3加算の取得状況に基づく加算率を維持した上で、今回の報酬改定による加算率の引き上げを受けることができる措置が講じられました。
<特別措置3:令和6年度の猶予期間一覧>
・キャリアパス要件(昇給/任用体系/研修)は令和6年度中に対応することで加算算定が認められます
・加算額IVの半額以上の月次改善は令和6年度中は実施しなくても猶予が与えられています
・職場環境等要件は令和6年度は現状維持で令和7年度から該当項目が増えます
令和6年度の報酬改定により処遇改善加算の制度が激変したので、令和6年度中は様々な緩和措置が講じられていることに注目いたしましょう。
特にキャリアパス要件の整備には労働関係の規則の整備との関係の整理が必要で、労働者の同意など時間を要することが多いです。
令和6年度の緩和措置をしっかり使って着実に準備いたしましょう。
まとめ
令和6年度の報酬改定により激変した処遇改善加算の制度に対する対策について詳しく分かりました。ありがとうございます。
就業規則や賃金規程を変更するとともに、必要な基準の賃金改善をしっかり行なっていきたいと思います。
令和6年度の報酬改定の大きなポイントは、処遇改善加算の額が上がると同時に月次改善額も約3倍になることです。
月次改善にて誰にいくら賃金改善をするのかは組織体制の要にもなるので慎重にご判断ください。また社会保障の増額分は事業所負担であれば改善額に入れることができるので、月次改善以外の金額もある程度ストックしておきたいところです。
令和6年度の報酬改定による処遇改善加算の新制度も上手に使えば組織の業務効率化につながるので、ぜひ要件をしっかり守って強い組織を作ってください。
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